地名の変更を調べる

はじめに

他の都府県では、本稿の内容と異なる点があるかもしれません。

本稿では、表記を「字名変更」で統一します。「字名改正」と意味は同じです。

法令の引用に関し、表や本文の体裁は、できる範囲の再現にとどめました。

調べ方・昔と今の違い

道路の歴史を調べることは、地理(の歴史)を調べることに通じます。

今と昔で異なる地名を見つけると、いつ変更したのか知りたくなります。変更の経緯まで調べられれば、各地域の時代背景がうかがえます。

北海道の場合、市町村合併を除いた近年の変更は非常に調べにくい。

結論から先に書くと、以前の変更は北海道公報で調べられます。近年の変更は市町村のサイトから情報の有無を検索するか、さもなくば直接市町村に問い合わせるしか方法がありません。

なぜでしょうか。

まず筆者は、角川書店の『北海道地名大辞典(上・下巻)』で調べます。各都道府県ごとに刊行されました。

市町村の変遷はもちろん、各集落の歴史についても実に詳しく記述しており、調査には欠かせない辞典です。古書店などでは数千円で販売されています。

大字内の小字に関する情報量が少なく、また地名(字名・町名)の変更時期は年しか書いていません。『北海道地名大辞典』1987年発売なので、調べられるのは昭和の歴史までです。

では、ほかに調べる方法はあるのだろうか。

地名(字名・町名)の変更は地方自治法により、都道府県知事が告示することになっています。つまり、都道府県公報を調べればよいわけです。あらかじめ各都道府県の『地名大辞典』や市町村史などで下調べをすれば、時期も特定しやすくなります。特に大字内の小字の改廃は、告示が最大の情報源です。

該当する地方自治法の条文を引用しましょう。

第二百六十条
政令で特別の定をする場合を除く外、市町村の区域内の町若しくは字の区域をあらたに画し若しくはこれを廃止し、又は町若しくは字の区域若しくはその名称を変更しようとするときは、市町村長が当該市町村の議会の議決を経てこれを定め、都道府県知事に届け出なければならない。

2 前項の規定による届出を受理したときは、都道府県知事は、直ちにこれを告示しなければならない。

3 第一項の規定による処分は、政令で特別の定めをする場合を除くほか、前項の規定による告示によりその効力を生ずる。

地方自治法では、埋立地等についても次のように規定しています。

第九条の五
市町村の区域内にあらたに土地を生じたときは、市町村長は、当該市町村の議会の議決を経てその旨を確認し、都道府県知事に届け出なければならない。

2 前項の規定による届出を受理したときは、都道府県知事は、直ちにこれを告示しなければならない。

例えば、次のように告示されます。

北海道告示第1497号
地方自治法(昭和22年法律第67号)第260条第1項の規定により、次のとおり町の区域を画定する旨、北広島市長から届け出があった。
この処分は、平成10年9月20日から効力が生ずるものとする。
平成10年9月4日
北海道知事 堀 達也
  1. 町の区域を新たに画するもの
    新たに画する町の区域の名称新たに画する町の区域
    従来の名称従来の区域
    輪厚中央(わっつちゅうおう)1丁目輪厚同町の一部
    輪厚中央2丁目輪厚同町の一部
    輪厚中央3丁目輪厚同町の一部
    輪厚中央4丁目輪厚同町の一部
    輪厚中央5丁目輪厚同町の一部
北海道告示第1116号
地方自治法(昭和22年法律第67号)第9条の5第1項の規定により、枝幸町長から次の土地が同町の区域内に新たに生じ、平成7年3月8日確認した旨の届け出があった。
平成7年7月21日
北海道知事 堀 達也
新たに生じた公有水面埋立地面積
枝幸郡枝幸町字幸町7901番に隣接する公有水面埋立地1,150.53平方メートル
北海道告示第1117号
地方自治法(昭和22年法律第67号)第260条第1項の規定により、次のとおり町の区域を変更する旨、枝幸町長から届け出があった。
平成7年7月21日
北海道知事 堀 達也
町の名称変更する町の区域
編入する公有水面埋立地面積
幸町枝幸郡枝幸町字幸町7901番に隣接する公有水面埋立地1,110.53平方メートル

ところがある時期から、字(町)名の変更が北海道公報に告示されなくなったのです。なぜでしょう。

地方自治法の特例措置を適用したからです。

地方自治法の特例

まず、該当する条文を引用します。

第四節 条例による事務処理の特例
(条例による事務処理の特例)
第二百五十二条の十七の二
都道府県は、都道府県知事の権限に属する事務の一部を、条例の定めるところにより、市町村が処理することとすることができる。この場合においては、当該市町村が処理することとされた事務は、当該市町村の長が管理し及び執行するものとする。

2 前項の条例(同項の規定により都道府県の規則に基づく事務を市町村が処理することとする場合で、同項の条例の定めるところにより、規則に委任して当該事務の範囲を定めるときは、当該規則を含む。以下本節において同じ。)を制定し又は改廃する場合においては、都道府県知事は、あらかじめ、その権限に属する事務の一部を処理し又は処理することとなる市町村の長に協議しなければならない。

3 市町村の長は、その議会の議決を経て、都道府県知事に対し、第一項の規定によりその権限に属する事務の一部を当該市町村が処理することとするよう要請することができる。

4 前項の規定による要請があつたときは、都道府県知事は、速やかに、当該市町村の長と協議しなければならない。

簡単に言うと、権限の移譲です。都道府県で条例を定めれば実施でき、市町村は知事に届ける必要がなくなります。地方分権の推進を図るため、1999年7月16日に改正しました(同日公布の法律第87号。地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)。

詳しく調べてはおりませんが、すべての都道府県で条例を設置したわけではないようです。

北海道では、2000年度から施行されました。公布された条例を引用します(原文は縦書き、抹消線は引用者。本稿に関係する部分のみ)。

北海道総合政策部の事務処理の特例に関する条例をここに公布する。

平成十二年三月二十九日(引用者注。平成二十八年七月十九日最終改正)

北海道知事 堀 達也

北海道条例第四号
北海道総合政策部の事務処理の特例に関する条例
(趣旨)
第一条
この条例は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十七の二第一項の規定に基づき、知事の権限に属する事務のうち総合政策部の所掌するものの一部を市町村が処理することとすることに関し必要な事項を定めるものとする。
(市町村が処理する事務の範囲等)
第二条
別表の左欄に掲げる事務は、それぞれ同表の右欄に掲げる市町村が処理することとする。
別表(第二条関係)

1 地方自治法(以下この項において「法」という。)に基づく事務のうち、次に掲げるもの

(1) 法第9条の5第1項の規定による新たに生じた土地の届出の受理

(2) 法第9条の5第2項の規定による新たに生じた土地の告示

(3) 法第二百六十条第一項の規定による町又は字の区域の新設等の届出の受理

(4) 法第二百六十条第二項の規定による町又は字の区域の新設等の告示

各市町村
附則
この条例は、平成十二年四月一日から施行する。

上記条例案は2000年の第1回道議会に提出され、同年3月23日に原案どおり可決されています。

条例が施行されてから、従来は北海道公報に登載されていた字(町)名の変更は、市町村の告示に登載されることになりました(北海道の場合、実際は1999年4月から実施されていた。「市町村長事務委任規則について」を参照)。

つまり、地元の住民以外は地名の変更が分かりにくくなったのです。

道庁の事務処理は軽減されたでしょう。その代わり、各市町村はウェブ上で字名変更の詳細を公開してほしいものです。地方分権の下に歴史の変遷を知る方法が制約されるのは、好ましくない傾向だと考えています。

2000年以降に実施された、市町村の主な字名変更は表1▼をご参照ください。

市町村長事務委任規則について
  • 1948年に市長事務委任規則として公布されたものを町村にも適用するため、1982年4月1日に施行された。
  • 都道府県知事は、権限に属する事務の一部を市町村長に委任できる条項が当時の地方自治法にあった。1999年4月1日に改正され、地方自治法第9条の5および第260条で規定された届出・告示は市町村長に委任することとなった。
  • この規則は2000年4月1日廃止。地方自治法の条項が1999年7月16日改正され、 同日公布の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が制定されたことにより、「北海道総合政策部の事務処理の特例に関する条例」へ移行した。
表1 2000年代に実施された字名変更例(市町村合併による変更を除く)
市町村名実施時期字名変更の内容
厚岸町2002年-2009年大字・小字を廃止。新たな町名と地番へ変更。段階的に実施。
北見市2007年2月24日三輪の一部を西三輪1~7丁目・中央三輪8~9丁目へ変更(一部の地番を変更)。
同上2007年11月10日三輪の一部を中央三輪1~7丁目へ変更。
同上2008年11月8日三輪の一部を東三輪1~5丁目へ変更。
剣淵町2005年10月1日町全域の字名・町名を廃止。新たな町名と地番へ変更。
猿払村2001年村全域の字名を廃止し、新たな町名へ変更。
苫小牧市2007年10月1日字沼ノ端の一部を東開町1~6丁目へ変更。
同上2008年1月26日字沼ノ端の一部を拓勇西町1~8丁目・拓勇東町1~8丁目・北栄町1~5丁目へ変更(地番も変更)。
中標津町2006年2月20日字中標津を廃止し、字名・町名の新設と町の区域変更を実施(地番も変更)。
字名・町名の新設
字当幌本通・青葉台・りんどう町・北中(※中標津空港周辺)・東中・俵中・旭ヶ丘・共立・南中・東当幌・緑ヶ丘・川西5~8丁目・桜ヶ丘4丁目・緑町北4~5丁目・並美ヶ丘(ならびがおか)4丁目・西14条北5丁目・東33条北6丁目・東19条南7丁目・東20条南7丁目・東21条南7丁目・東22条南7丁目。
町の区域変更
桜ヶ丘3丁目・緑町北1~2丁目・緑町南1丁目・並美ヶ丘1丁目・丸山3丁目・北町1丁目・西10条南6丁目・西11条南6丁目・東13条南11丁目・東14条南11丁目・東16条南3丁目・東19条南8~9丁目・東20条南8~9丁目・東21条南8~9丁目・東22条南8~9丁目・東28条南3丁目・東29条南3丁目・東30条南3丁目・東28条北6丁目・東32条北4丁目・東32条北7~8丁目・東33条北5丁目。
字当幌の一部を東当幌に、字俵橋の一部を東中・俵中(ひょうちゅう)・旭ヶ丘に、字開陽の一部を北中・りんどう町に、字俣落の一部を青葉台・りんどう町に変更(地番も変更)。
浜頓別町2002年12月2日浜頓別市街地の字名・地番を変更。
浜中町1997年-2006年大字・小字を廃止。新たな町名と地番へ変更。段階的に実施。
詳細は、浜中町の字名改正をご参照ください。
稚内市2003年12月1日大字宗谷村字大岬を、宗谷岬へ変更。若葉台1~3丁目の新設など。
同上2005年6月6日大字稚内村の小字(ウロンナイ・ルエベンルモ・マタルナイ・ルエラン)を廃止し、西浜1~4丁目へ変更。