開発道路・道道増毛当別線の指定区間

道道増毛当別線
施行日延長工事告示備考
1989/03/06増毛郡増毛町大字舎熊村字信砂御料1706番石狩郡当別町字青山奥四番川2513番12129.6改築1989/03/06 建設省516、517新たに指定。延長は留萌開発建設部管内0.3km、札幌開発建設部管内29.3km。
2004/06/03増毛郡増毛町大字舎熊村字信砂御料1706番 注1▼石狩郡当別町字青山奥四番川2513番121▲29.6改築2004/06/03 国土交通省582、583指定を廃止し、建設を中止した。

採択から建設中止まで

概要

札幌圏と留萌圏を結ぶ新たなルートの形成、農林水産品の輸送力向上、雨竜沼湿原へのアクセス改善、一般国道231号不通時の迂回ルート確保等を目的とし、1988年に採択された。増毛当別線以降、新規に採択された路線はない。

新十津川町字吉野のワッカ林道交点を境に、北側を暑寒道路、南側を徳富道路と呼ぶ。ルート全体のうち、暑寒道路の起点から4.4kmは「恵岱道路」の別名があって留萌開発建設部の担当、残りは札幌開発建設部の担当である。

なお、北海道開発局作成の図面では暑寒道路17.0km、徳富道路12.2km、全長29.2kmとなっている。同局の開発道路指定調書は当初から全長29.6kmであり、400m の誤差が生じている。

起点の増毛町と北竜町、終点の当別町を通る距離はごくわずかで、大半は雨竜町と新十津川町を通過する。暑寒道路の自治体別延長を表1に示した。

表1 暑寒道路の自治体別延長
増毛町北竜町雨竜町新十津川町
0.6km0.3km8.4km7.7km

環境影響調査

着工に先立ち、暑寒道路の環境アセスメントが実施された。

暑寒道路は、雨竜町と新十津川町で暑寒別天売焼尻国定公園の第3種特別地域内を通る。この点が北海道環境影響評価条例施行規則で定める、特定地域で新設または改築する「幅員5.5m以上・延長5km以上」の一般国道・道道・市町村道・その他道路の対象事業に該当した(注2▼)。

調査結果のまとめは表2・表3のとおり。

表2 暑寒道路沿線に生息する貴重な植物
植物の名前調査結果
ヒメスギラン生息地をトンネルで通過するため、保全される。
エゾノレイジンソウ
  • 広範囲に分布している。
  • 計画路線の生息地が、環境に適さなくなる可能性はある。
マルバキンレイカ生息地は沿線から離れており、保全される。
表3 暑寒道路沿線に生息する貴重な動物
動物の名前予測結果
カラフトアカネズミ生息環境の一部が失われる。
クマゲラ
  • 計画路線の周辺に営巣木・ねぐらとする木が各3本、採餌をする木が80本確認された。
  • ただし、雛を育てる繁殖期の営巣木を観察したところ、営巣は確認できなかった。
  • 道路建設で、ねぐらとする木・採餌をする木が伐採される可能性はある。
  • けれども、計画路線周辺を含む広域に同様の生息環境が分布しており、影響は小さいと考えられる。
オオタカ・ハイタカ・コノハズク
  • 北海道の広範囲に分布している。
  • 森林伐採により、生息環境が一部失われる。
オシドリ生息域の恵岱別ダム・尾白利加ダムは計画路線と離れており、影響はない。
カワセミ生息域の一部が失われる。
オオジシギ生息域の一部が失われる。
エゾサンショウウオ生息域の一部が失われる。
昆虫類

以下の昆虫は、道路建設による生息域の消失が限定的である。

  • ヒメギフチョウ
  • エゾルリイトトンボ
  • セスジアカガネオサムシ
  • ヒメウスバシロチョウ
  • カバイロシジミ
  • ダイコクコガネ
  • ケマダラカミキリ

以下の昆虫は広範囲に分布しており、沿線の一部で生息地が失われ、環境に適さなくなる可能性がある。

  • オナガアゲハ
  • オオルリオサムシ
  • キタクロオサムシ
  • ヨスジホソハナカミキリ
  • オオイチモンジ

調査ではクマゲラを除き、生息域・生息地の一部が失われる種について「大部分の生息環境は現状どおり保全される(ものと考えられる)」と結論づけている。

環境保全対策の検討結果

事業実施に際しては次の点に留意し、自然環境保全に努めるとした。

  • 起伏量の多い地形はトンネルとする。
  • 主要河川の通過は橋梁を架設する。
  • 必要に応じ、適宜擁壁を配置する。
  • 植生の改変を最小限にとどめる。
  • 法面等に発生した裸地は速やかに緑化し、土砂流出を防止するとともに、景観への影響を少なくする。
  • 使用機械や施工方法に配慮し、騒音・振動を抑えた工事を行う。
  • 工事用道路の位置選定や散水等により、土砂掘削・運搬で生じる塵埃を低減する。
  • 水質に有害な影響を与えないよう措置を講ずる。

1992年11月16日に雨竜町で開いた公聴会を経て、1993年5月15日に知事の諮問機関である北海道環境影響評価審議会が建設容認を答申した。

北海道公報に登載された知事の意見を引用する。

公表
北海道環境影響評価条例(昭和53年北海道条例第29号)第25条の規定により、一般道道増毛当別線暑寒道路環境影響調査報告書についての意見を次の通り公表する。
平成5年6月15日
北海道知事 横 路 孝 弘
意見
一般道道増毛当別線暑寒道路環境影響調査報告書の内容について検討を行った結果、特に意見はない。
なお、事業を進めるにあたって、配慮すべき事項に係る附帯意見は、次のとおりである。
  1. 植物のうちイカリソウについては、生育の北限に近い可能性が高いことから、今後調査を進め、その結果を踏まえた適切な保全措置を講ずること。(引用者注-環境アセスメントでは、イカリソウへの言及がない)
  2. 着目すべき動物の生育環境を保全する観点から、実施可能な環境保全対策を更に検討し、それらを適切に講ずること。

公表を受け、暑寒別天売焼尻国定公園の公園事業(注3▼)として、区域内を通る暑寒道路の概要が公示された。

表4 暑寒別天売焼尻国定公園に関する公園事業の一部決定(1993年8月20日北海道告示1283号)
名称種類位置
恵岱別雨竜線道路(車道)起点-雨竜郡北竜町(恵岱別・国定公園境界)
終点-樺戸郡新十津川町(和歌・国定公園境界)

着工

1994年度に事業化され、翌1995年度に暑寒道路が着工された。着工に向けた準備は、事業化以前から進められている。判明している限りの工事内容を表5にまとめた。「実施」の項は、作成や建設等が確認できた内容のみ含めてある。

表5 暑寒道路の工事計画
年度開発建設部計画実施
1991留萌恵岱別大橋予備設計業務
1992留萌工事用道路実測線調査設計業務
1993留萌用地測量調査(886m。恵岱別大橋を含む)
1993札幌用地測量調査(1,523m。雨竜町内)
1994留萌
  • 工事用道路建設(1,435m。~1995年度)
  • 恵岱別大橋下部工(~1997年度)
  • 用地測量調査(300m。増毛町内起点部分)
  • 用地測量調査(1,000m。恵岱別トンネルを含む。~1995年度
工事用道路仮橋一般図作成
1995留萌
  • 恵岱別大橋河川協議
  • 恵岱別大橋下部工
  • 工事用道路仮橋河川協議
  • 工事用道路平面図作成
1996留萌用地測量調査(1,400m。暑寒別トンネルを含む)実施設計業務(1,340m。恵岱別大橋を含む)
1997留萌用地測量調査(800m。雨竜町内)
1998留萌恵岱別大橋上部工(~2002年度)
2004札幌雨竜町内 1,523m の事業完了予定
2008留萌起点側 4,400m の恵岱道路事業完了予定

暑寒道路は5工区に分ける計画だった。実際に着手されたのは第2工区だけである。徳富道路は未着手に終わった。

表6 暑寒道路の工区別延長
工区名延長主な構造物
1工区600m
2工区415m恵岱別大橋
3工区5,935m恵岱別トンネル・暑寒別橋・暑寒別トンネル
4工区4,780m暑寒別トンネル・簑島橋・国領大橋・尾白利加橋・徳富トンネル
5工区5,220m徳富トンネル・奥和歌大橋・内浦橋

事業中止

暑寒道路計画ルート付近でクマゲラの生息が確認されたのを契機に、1997年から工事は中断し、その後も再開されなかった。

1987年度から行われていた周辺自治体の要望も、2002年度以降は途絶えた(表7)。

表7 増毛当別線の整備を要望した期成会(自治体名等は2003年度当時)
期成会名会長主な構成メンバー備考
増毛当別線建設促進期成会雨竜町長雨竜町・新十津川町・北竜町・当別町・増毛町の首長1987年結成。2000年度より活動休止。2002年5月27日解散。
暑寒山麓等開発構想推進協議会当別町長当別町・小平町・北竜町・浦臼町・石狩市・留萌市・厚田村・浜益村・月形町・新十津川町・雨竜町・沼田町・増毛町の首長2002年4月解散。
北海道空知地方総合開発期成会岩見沢市長空知支庁管内にある市町村の首長2002年度以降要望なし。

2003年度末の進捗率は測量・地質調査と設計がともに13%、用地4%、事業全体で3%に過ぎない。見直しの結果、事業は中止された。

第一に、事業の長期化が予想されたからである。

  • トンネル4本(4,184m)と橋梁12基(2,014m)の構造物を新設する。
  • 地すべり地帯を通るため、調査・対策が必要である。
  • 積雪が多い山岳地帯であり、工事は5月~10月に限定される。

1.5車線で整備する場合は、速度低下や冬期通行止めが避けられず、コストと工期の縮減も見込まれないと判定された。

第二に、一般国道231号の防災対策・深川留萌自動車道の建設といった周辺ルートの整備が進み、札幌圏と留萌圏の交通利便性は確保できうると見なされた(注4▼)。

公園事業の一部削除

現在、暑寒別天売焼尻国定公園管理指針の公園事業取扱方針に、恵岱別雨竜線(道路・車道)は含まれていない。「今後とも施設が整備される見込みがなく、実態上計画の必要性が乏しい」として、削除されたのである。

環境省は2004年9月10日の報道発表で、暑寒別雨竜線(道路・車道)の削除を含む公園計画変更案を明らかにし、同日から同年10月12日までパブリックコメントを募集している。意見の提出は、郵送・ファックス・電子メールで受け付けていた。しかし変更案に関する意見は、まったく寄せられていない。同年11月30日に開かれた、第8回中央環境審議会自然環境部会自然公園小委員会で了承されたのち、官報で変更内容が告示された。恵岱岳スキー場と関連施設の計画も同時に削除された(表8)。加えて、スノーモービル等の乗り入れ規制が暑寒別山系地区の特別区域全体へ拡大されている。

表8 2004年度に削除された、暑寒別天売焼尻国定公園の利用施設計画
名称種類位置規模
スキー場単独施設雨竜郡雨竜町(恵岱岳)、雨竜郡北竜町ゲレンデ面積-85.40ヘクタール
恵岱岳北東麓に造成を構想していた。
宿舎単独施設雨竜郡北竜町(恵岱別)青少年リゾートセンター(鉄筋コンクリート造10,734m3 )
同体育館(鉄筋造り1,650m3 )
野営場単独施設雨竜郡北竜町(恵岱別)遊歩道・キャンプ場
運動場単独施設雨竜郡北竜町(恵岱別)グラウンド・テニス場・アスレチック
恵岱別雨竜線道路(車道)起点-雨竜郡北竜町(恵岱別・国定公園境界)
終点-樺戸郡新十津川町(和歌・国定公園境界)
道道増毛当別線。公園内延長-7,320m
恵岱別線索道運送施設運輸施設起点-雨竜郡北竜町(恵岱別)
終点-雨竜郡雨竜町(恵岱別)
複線交走式150人乗りロープウェイ(3,386m)
2人乗り連絡ペアリフト(300m)
6人乗りキャビン(2,100m)

全線未供用で路線の実態がない増毛当別線は、北海道建設部建設政策局維持管理防災課編『道路現況調書』に未掲載のままとなっている。

注1
1998年9月7日、増毛町は大字・小字を廃止した。大字舎熊村字信砂御料は現在、御料となっている。
注2
2020年現在は特定地域の道路建設に関する規則が改められ、次の流れで進む。
  1. 事業者は、事業の種類・規模・実施地域等の概要を書面で知事に提出する。
  2. 知事は、事業者が提出した書面の写しを該当地域の市町村長に送付し、環境アセスメントの必要性について意見を求める。期間は30日以上とする。
  3. 2の意見を勘案し、事業者の書面提出から60日以内に、知事は環境アセスメント実施有無を判定する。どちらの場合でも、判断結果と理由を事業者と該当地域の市町村長に書面で通知する。
注3
自然公園法の定めにより、国立公園・国定公園の景観や生態系を維持する方針を示したもの。計画で定める道路名と、実際の道路路線名を同一名称で揃えるとは限らない。
注4
2003年度末時点で、深川留萌自動車道は深川ジャンクションから沼田インターチェンジまで開通していた。その後も順次延伸し、2020年3月28日に留萌大和田インターチェンジ-留萌インターチェンジの供用を開始し、全線が開通した。また一般国道231号は雄冬防災事業により、石狩市内の厚田区・浜益区で安全性が向上している。